とげまる/スピッツ
(2010)
Album
クリアで粒ぞろい、でもこの物足りなさは
こんなにもレビューしづらいスピッツ作品はなかった。Jロック(あえてそう呼ぼう)のクリアな上澄みのようなアルバム。タイアップ7曲という事情もあってか、楽曲の質はとにかく粒ぞろい。もはや職人と化したマサムネ氏からは、「当たり前」とでもいわんばかりの手軽さで名曲が飛び出してくる。各曲の質だけとってみれば、(前作に続いて)安定したトップクオリティといえるだろう。キャンドルの置かれた夕暮れの草原から、中面を開いてみればある女の子の一日の散歩を追った流れになっている仕掛けのアートワークもノスタルジックで最高(キャンドル・ジュンだYO!)。だが。だが、なのである。結論をいってしまえば「決して駄作ではない、だが傑作でもない」そんなアルバム。どことなく“今この瞬間”との接点を欠くような、ぼんやりしたフォーミュラにはめ込まれて鳴って聴こえるような、そんな雰囲気が漂う。曲から曲への物語性が希薄で、全体を聴きながらだんだん気分が高揚していくようなトータリティと世界観にうっすら欠ける。つまりね、この「とげまる」、ランダム再生しても印象がさほど変わらないんだ。各曲単位で切り売りするiTunes時代の産物なんて話じゃないと思う。この聴き方は好みもあると思うけど(実際、メンバーは本作の制作時インタビューで「どこから聴いてもスピッツらしいような作りを目指した」と語っている)、なんだか僕にとっては、演奏順に収録したライブアルバムのようにも聴こえたり。そういう意味では、ほとんど同様のフォーマットだったはずの前作“さざなみCD”にあって今作にない「魔法」について、図らずも考えさせられたアルバムといえる(“魔法のコトバ”という曲が入ってるか否かの話ではなく)。タイアップで既に世に出ている楽曲が多いため、評価されること自体あまり意味を成さないのかもしれない。でもそれじゃあんまりなので各曲単位でみてみると、M11「えにし」では“美しい世界に 嫌われるとしても それでいいよ 君に出会えてよかった”、M14「君は太陽」では“理想の世界じゃないけど 大丈夫そうなんで”という、近年スピッツの歌詞に繰り返し登場する「受容」のイメージが今回もそこかしこに見え隠れして、さりげなく優しい。まぁなんだかんだいったって結局涙腺はゆるむわけで、こういうところがスピッツだよなぁというところに落ち着いたり。理想の世界じゃなくたっていいよ、「違和感を感じること自体を受け入れよう」というのはつまり、自然体でいく、ということだ。自然体バンドの象徴にどんどん近づいていくような現在のスピッツのありようをそのままパッケージしたベスト盤、というのが「とげまる」の正しい位置づけかもしれません。足りないものは全くないのに、聴くほどになぜか物足りないという不思議に贅沢な作品。(2010年11月)

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