music has the right to children music has the right to children/Boards of Canada
(1998)
Album
見たことない生き物との出会い 1998年、その後爆発的ブームになるジャンル「エレクトロニカ」がまださほど世間からは認知されていなかった時代。スコットランドはエジンバラの青年2人によるユニットboards of canadaによってひっそりと産み落とされた、伝説的1stアルバム。再生ボタンを押した瞬間、空気がひんやりと、変わる。まるで濃い朝霧に包まれた森林の奥深くへと一歩一歩歩みを進めていくような…本作を聴いて思い浮かぶキーワードを幾つか挙げてみよう。浮遊感、幻想的、静寂、ノスタルジア…心の中と外界、過去と未来があたかも一つものに同化したような酩酊感、抑えきれない不安、得体の知れない何かのささやき声、郊外のざわめき、瞬く光、心臓の鼓動音、子供の声、残響…。サイケデリックな幻覚に包まれながら、目を閉じてゆっくりと聴きいる。僕はこのアルバムほど、聴いているあいだに「映像」が想起される作品には出会ったことがない。これはいわゆる純粋なエレクトロニカではないと思うけど、当時もそして今でも、音の捉え方、配置や響かせ方の全てがいわゆるダブやアンビエント・テクノにカテゴライズされるものともまた全く異なる決定的な異質感があると思う。見たこともない新しい生き物との出会い(それはもしかするとある種の人々にとって、音楽を聴く意味でさえあるのかもしれない)。それは単にヒップホップビート基調のシンプルなリズムパターンのせいであったり、あるいはまた徹底的なアナログ感重視の柔らかなサウンドメイキングのせいだったりと分析することも無論可能なのだろうけど、もはやそんなことは差し置いてもこの幽幻なるサウンドスケープ/世界観を前ひたすら黙って耳をただ傾けるのが正解である。問答無用に聴き手の脳幹を麻痺させる音像(それは現代社会に適応している人にほど、効果は大きいのかもしれない)。その麻薬性こそが彼らboards of canadaをシーンにおける換えのきかない絶対唯一無二の存在とさせている所以でもあるのだ。テクノ/エレクトロニカ/IDMを聴く上で避けて通れないクラシックの一つ。(2007年5月) *2009年一部加筆




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