ライフサイクル ライフサイクル/田辺マモル
(2007)
Album
横浜の灯、永遠の光 ヘッドフォンから不意にこの曲が流れて、遠く海の向こう側には夕暮れの横浜が見えた。ああもうここに来ることもないんだなと、苦しいんだか疲れてるんだか自分でも判断できない、ただちくちくと不安定になってしまったがらんどうの心の中で次々といろんな思いが立ち上っては消える。頭のなかは何一つまとまらないまま、彼女が待ち合わせに現れるまでの時間をつぶしていた。快晴の日の夕暮れ、裏山で遊ぶ子供たち。公園の山を天辺まで上った瞬間に突然、“君”の顔を半分だけ強烈に照らし出した夕日の光。まつげが光り、瞳は透きとおる。沈む寸前の太陽の橙と金色とが混ざって視界が真っ白にハレーションを起こす。現実世界ではわずか1秒にも満たないほんのわずかな瞬間のできごと、純粋な驚きをこれほどまで美しく切り取って、繊細に鳴らした音楽を僕は聴いたことがなかった。一瞬のあいだに“僕”の胸を揺るがした鮮烈な想いを歌ったうた。まるでハイスピードカメラで撮影された世界を眺めているような音像。人生で初めて美しさというものを本当に理解したその一瞬についての歌。シンプルなコードのリフレイン。「これは永遠の光なんだ/今このときが永遠なんだ/なんだかよくわからないけれど僕はそのとき胸に刻んだんだ」上りきるまで気付かなかった、山の向こう側斜面を真っ白に燃やす光。そうか、ここから向こうは光のなかだ。斜面を降りてゆくにせよ、青春のクライマックスはとうに過ぎ去ってしまったにせよ、この光に出会えたことが僕の生きる意味だ。歌詞をなぞりながらよろけながら猛烈な勢いで感情がページをめくられていく。うわわ、やばいなと思う間もなくコンタクト越しの横浜はどんどん大きくぼやけ、もはやフォーカスの遥か向こう。ぼろぼろと涙が止まらなかった。申し合わせがあったわけじゃない。でも確かにあの日、終わりがゆっくりと僕とあの子の頭上に訪れたのを感じていた。そしてそれと同時にここからは夕映えに照らされた下り坂を一歩ずつ進んでいくのだと、ナイーブすぎるかもしれないけど、何かに諭されるように心の奥底で実感した。いまでもこの歌を聴く度そんな風景も一緒になって頭のなかに押し寄せてくるからどうにも忘れられない一曲、M3「永遠の光」。(2009年6月)




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